|
「えっと、下村 麻衣、16歳学生。下校中、曲がり角で前方不注意の車にはねられ死亡・・・か。16歳って まだ若いのに・・・可哀想になぁ・・・」 新米死神16142号はじっくりと名簿を眺めてから、上を見上げて呟いた。 蒼い空。 本日も、晴天なり。 直後、車の激しいブレーキ音と、何かのぶつかる大きな音が響いた。 「さて・・・仕事すっか。」 「・・・というわけで、死人のモラルについて説明しましたが・・・聞いてる?」 「・・・はい、聞いてます。」 「そう?じゃあ続けるな。次は・・・」 先程からずっとこの調子である。少女―麻衣は、死神16142号が説明をしている間、明後日の方向を向いて、 放心状態だった。 まだ自分に起こった事が信じられないように。 (仕方ないっちゃあ、仕方ないけど・・・) そんな少女の様子を見ながら、16142号は説明を続ける。 (まだ若いからなぁ・・・夢とかそういうのも持ってただろうに・・・) それからしばらく話を続け、話題が『死神の心意気』にまでさしかかったとき、不意に少女はくるりと16142号 の方を向いた。 「死神は例え上司にいびられようとも・・・あ、質問?何でもどーぞ。」 「あの・・・私、本当に死んだんですか?」 「あ・・・はい、そーゆーことになりますね。」 「どうして死んだんですか?」 「え・・・?」 少女から死神に向けられた問いは、あまりにも大きく、あまりにも哀しいものだった。 「それは、えっと・・・」 必死に答えを探す死神に、少女は早口で、 「どうして?私まだ16歳なんですよ?今年の春、念願の高校にやっとの思いで入学して、入りたかった演劇部に 入って、その中の憧れの先輩に近づけるように毎日必死に練習して、その結果、今度の公演で、いい役を貰え たんですよ。・・・それで・・・それでこれから追い込みだったのに・・・!!私の、私たちの初舞台だったの にっ・・・」 「えっと・・・そう言われても、こっちとしては・・・」 「ですよね、死神ですもんね、私ら人間が死のうと、慣れっこでしょうからね。でも私らはこれが最初で最後な んですよ。・・・なんで私なんですか?他にも人間はいっぱいいるのに、何で私なんですか!?」 「そう、言われても・・・」 やばい、変な方向になってきた、と死神が思ったのと同時に、少女は急に立ち上がった。 「だって私、さっきまで生きてたのにっ!!」 少女の目から、涙がぼろぼろと零れ落ちる。 それを目にしても冷静に対処できるほど、その死神は経験を積んでいなかった。 少女の涙と気迫に押され、少したじろぐ。 「えっ・・・あの・・・可哀想だけど・・・」 ぽつりともらした死神の言葉に、少女が反応し、 「・・・っ」 少女は死神に背を向け、走り出していた。 「えっ、ちょ・・・おい待てって!」 慌てて死神も走り出すが、 「いや・・・速っ!?」 少女は意外と速く、少しずつ離されていった。 そして何個目かの曲がり角を曲がると、 「あ・・・れ?」 少女の姿は何処にもなかった。 しばらく放心状態だった死神はハッとした。 (やべー逃げられた?これって仕事失敗?俺、クビ?この職業でもクビ?つか上司に何されるか・・・どーすん だオレ!どーするべオレ!?) 頭を抱えて悩む死神だったが、ふと、すべきことに気付いた。 「・・・なんて悩んでる場合じゃないよな。あの子を“救う”ことが第一なんだから。」 ・・・しかし気付いたはいいが、どうすればいいのか、わからない。ここは広すぎるのだ。 少し考え、死神は、ある決断を下した。 ――その決断が、自分の死に繋がるかもしれないことも、彼は知っていた。 (つーかオレ、もう死んでるし?) ぴ、ぽ、ぽ・・・ 『はーい、こちら841号、通称やよいでーす。』 「あ、もしもし・・・16142号っス・・・。実はですね、やよいさん・・・」 『主任と呼びなさい。で、何?声からして、やばいことでもあった?目標が駄々こねてるの?』 「あー・・・もっとひどいかも・・・。目標に逃げられました。んで消えま」 『死ね。』 「・・・もう死んでます。」 『あー、もうバカ。アホ。ボケ。×××で×××な×××野郎。』 言いたい放題のやよいに“何でこんな女にここまで言われなきゃいけねーんだ”とか“いっそのこと電波障害を 装って切ってやろうか”とか“でも俺らのケータイは圏外とかないんだよなー”とか考えていた死神16142号だった が、次のやよいの一言で、そんな考えは綺麗に削除された。 『・・・で、どこよ。』 「来てくれるんスか!?」 『こっちも忙しいんだけどね。でも、あんただけじゃどうにもならないし、何より魂を迷子にさせたままじゃだめでしょ。 それじゃ死神の存在意義全否定だし。私たちは“死神”だから、ほっとけないのよ。』 「・・・かっこいいっスね。」 『伊達に長年、死神やってないよ。』 その言葉は、とても透明に聞こえた。 「あー、いたいた。ちょっと新米、何してんのよ。トラブルばっかり。クビにしてやろーか。」 「いや、あの・・・それだけは勘弁してください。」 呆れ顔でキレ気味のやよいを前に、ただただうなだれる16142号。 「ったく・・・それより、目標はどんな人物?」 「あ、えっと、下村麻衣、十六歳。本日午後6時43分、前方不注意の車にはねられ、死亡。その後説明をして たんですけど・・・」 「自分の死にとまどって暴走・・・と。・・・言い合いになった?」 「いえ、言い合いには・・・」 『可哀想だけど・・・』 「・・・あ。・・・すいません、NGワード使いました。」 「はぁ?ばか。」 ばこ、といい音が響き、16142号が頭を押さえた。 ちなみにNGワードとは、“可哀想”や“残念だけど”など、魂に同情するような言葉。それらを使ってしまうと、 彼らを相当傷つけてしまう。したがって、暴走もしやすい。 「いっつ〜・・・」 「この際もう一度よ〜っく覚えときなさい。魂を案内する時、一番注意しなければならないことは、彼らに同情しないこと。同情することで、彼らに自分を『悲劇の主人公』だと思わせないこと。」 「はい。」 「ったく・・・。それより、早くその子を探して見つけないと・・・。とりあえず、家には行った?」 「いや、まだ・・・」 「基本でしょ、これは。・・・まあ、まだ新米のうちは、目標の死ぬ場所しか感じられないんだけど。」 申し訳なさそうにする16142号に、さりげなくフォローを入れるやよい。 (まぁ、目標が失踪だなんて、いくら説明とかきいていてもやっぱ初めてだと対処しにくいし、いい経験になる でしょ。) 「・・・さっ、行くよ、いちまんせんろっ・・・え?いちまんよんせんひゃく・・・んん?」 「16142号っス。」 「あ〜、もう言いにくいっ、五ケタなんて!・・ほら行くよ、“コータ”!」 「おっけー、やよい!」 「主任と呼びな!」 →中編へ ちょこっと解説・・・。麻衣が逃げるのが早かったのは、別に足が速かったというわけではなく、「思い」が強 かったのです。 魂の足の速さとか力の強さは、「思い」の強さに比例すると思うんですよねー、肉体がないわけですし。 ・・・と私は一方的に思っているんですが、どうでしょう?(聞くな) |