忘却と空腹〜森の晩餐会〜



満天の星空の下、ふくろうや虫たちがさえずる小さな森の中で一人の旅人が焚き火をくべていた。

「ねぇ、エルメス。」
「なんだい、キノ?」
「人はものを忘れられるから素晴らしいと思わないかい?」
「悲しかったこととか?」
「うん、悲しかったことも」
「楽しかったことも?」
「楽しかったことも。」
「ふーん、でもキノ、そのことって前にも話さなかった?」
「ん、忘れた。」
そこでキノと呼ばれた旅人は笑ったようだ。
「あー、おなかすいたー。やっぱり紅茶だけだとキツイなー。」
「前の国で大歓迎受けてたっぷり食糧もらったのに調子に乗るから・・・」
「だって、思いのほか美味しかったんだもの。携帯食糧なんて初めて見るフルーツ味だったんだから。狩ろうにもこの森って動物いないし。」
「でもあそこで泣いてるフクロウでもいいじゃん。人間やればできるって。こういうときこそ排水の栓だよ。」
「背水の陣?」
「そうそれ!」
そういって黙り込むエルメス。
「うー、この空腹も忘れられればいいのに・・・」
キノはそう言って仰向けに寝転がった。




そのやりとりを茂みから眺める視線があった。



「陸、私はストーカーじゃないよ。」
「ええ、存じております。突然何を言われるのですか。」
「なんだか、先に誰かに断っておかないといけない気がしてね。」
「だいたいこの森に着いたのはわたくしたちが先ですよシズ様。」
「ああ、そうだったね。」
そこには一人の青年と一匹の犬がいた。少し離れたところにはバギーが停めてある。
「私はたぶん・・・いや絶対、キノさんのことは忘れられないと思う。」
「そうですか。わたくしはあのポンコツ単車はさっさと忘れたいですが・・・・。いや、それよりもいつまでこうしているつもりなんですか?そろそろ出ていかないとキノさんが餓死してしまわれますよ。」
「ああ、そうだった。急いでキノさんにこの食料を口移ししなければ・・・!」
「シズ様、早まってはいけません。そこに至るまでにはちゃんとした順序が・・・って、何を言わせるんですか。冷静に行ってください。」



がささっ

「!!・・・・・・・・・・・・・」
突然茂みから何かが出てきたので獲物と思いキノは"森の人"を構た。そして、そこに立っていた人物を確認してもなおパースエイダーを下ろす気配はない。しかし顔にはあからさまにがっかりした表情がうかがえた。
「相変わらずだねキノさん。でもとりあえず銃をしまってくれないかい?」
「・・・・」
むすっとしたままキノはしぶしぶ森の人をホルスターにしまった。
「私たちは先にこの森に着いて休んでいたんだけど、空腹を訴える会話が聞こえてね。食糧を分けにきたんだけれど、どうかな?」
それを聞いたとたんキノの顔はぱぁっと明るくなり
「ぜひっ!さすがシズさんっ、素敵です!」と答えるのだった。
それを聞いてシズは照れつつも安堵する。
「そうと決まれば食事の準備だ。なに、栄養バランスは任せてください。」




相も変わらず星々は輝き。

森の生き物たちはそれらを讃え歌い。

その小さな森の真ん中で。

二人と一台と一匹の

小さな小さな宴が開かれた。







*芦原雪那さんからのキノ話です*

三周年記念☆ということで貰っちゃいました!やったね!
このシズ様は変態じゃないように見せかけてやっぱり
ストーカーだと思うんだ。そんな彼が好きなんだ。
いやホントはいい人だって知ってますよ。優しい人なんです。
あんなことをするような人じゃないんです…!(…
雪那さんありがとですー!


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