『はるのこばなし』改め、

『しあわせなひび』



『風が柔らかくなった』


そう陣が歌うように言っていたのは、ほんの数日前のこと。


『そう言えば、温かくもなってきたな。もう春か。』
『んだ。はるだ。』

楽しそうに頷いて、身振り手振りを交えながら(それでもよく分からなかったのだが)陣は話してくれた。

『ふゆのはキンキンして冷たくて、元気いっぱいだけども、ちょっとかたい。』

『そんではるは、いたずらっこにもなるけども、やわらかくてやさしい。』

『しかも、はるの風はふわふわして、気持ち良くって、なんか眠くなっちまう。』

『不思議だべ。』

と。そういうのを春眠暁を覚えずと言うんだ、と言ったら、それ何の呪文?と返された。

『魔界には、なつとかはるとかねがったさげ、嬉しいんだ!』
『確かに陣は明るいのや楽しいのが好きだもんな。』
『んだ、それもあるし……』

そこで一旦区切って、陣は縁側に目をやった。
つられて自分も視線を移せば、お互いの相棒が並んで転寝をしている所だった。

『あいつが嬉しそうださげって、オレも嬉しくなった。』

こちらに背を向けているため二人の表情はわからないが、片方はあどけない、そしてもう片方は穏やかな顔をしていることが簡単に想像できた。

『いいもんだべな、こーゆーの。』
そう言って笑った陣の横顔がだいぶ大人びて見えたのは、おそらく気のせいではなかったと思う。


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「陣も意外としっかりしてんだよなぁー……」
しみじみと思い返しながら、幻海邸までの長い長い階段を昇る。
手に提げた買い物袋が歩調と同じリズムで揺れている。中身は酒と肴、そして菓子。
ジャンケンで負けて買い出し係になったものの、買い物は好きな方だったのでそれほど苦には思わなかった。
「……しっかし、本当に良い気候だ。」
肺いっぱいに空気を取り込んで、一拍置いてゆっくりと吐き出せば、なんとなく清々しい気分になる。
我ながら単純だと思いつつも、あいにく三歩も歩けばそんな反省は記憶の彼方。
代わりに頭に浮かぶのは、この季節に相応しいような今朝の仲間の姿。


また花見をしたいと言っていたのは酎だ。この分だと来月あたりにはもう桜が咲いているかもしれない。

今日はこっちでデートするんだと言っていたのは鈴駒。この天気だから、屋外中心に店を周っているのだろうか。

陣は「今日こそチューリップの芽を出させてやるべ!」と意気込んでいたし、
(球根をくれた蔵馬曰く、発芽するのは三月中旬ぐらいだそうだが、陣は気合いで何とかなると思っているらしい)

凍矢はいつも通りに、陣と一緒に行くだろう。チューリップについてはもう諦めたようだ。


死々若は――

「……あいつは猫じゃないのかホントは。」

猫は一日14時間以上寝ると言うが、最近の死々若も負けてはいないと思う。
今日だって、『いってくる』と一言声をかけようとした時には小鬼姿でもう眠っていた。
縁側はどうやらあいつのお気に入りとなったらしい。
仮にも鬼の類いだというのに、丸くなって小さく眠る様子は本当に小猫のようだった。


『風が柔らかくなった』

陣の言葉に、死々若の姿が重なる。

(……魔界生まれの小鬼をも眠らせてしまうほどに、な。)

思い出したら自然と頬が緩んでしまったので、いかんいかんと首を振って回想を終えようとしたのだが、
こういうのは一度頭に張り付いたらなかなか消えてくれないもので。いや困った。
仕方ないので、打ち消すのは止めにして敢えて思い浮かべることにしてみる。
ころんと転がった、小さな鬼を。

(帰ってまだ寝ていたら、俺も隣で眠ってみようかな。)




そう思った途端、ゆっくりだった足取りがほんの少し速くなったのは、


春の風に、押されたからなのかもしれない。



(おわり)







某企画に参加した時の作品です。これのちょっと後にもう一個、お題の「ゆ」になったやつも出しました。加筆修正済みです。

親子で兄弟で親友で仲間な六人衆って素敵だよね!あと春ってなんかあったかくていいよね!
という思い込めて書いたはずがまぁなんていうか某繁華街コンビが見事に消えて……
六人動かすの難しいんだもんよ!三人くらいでいっぱいいっぱいだよ!
鈴木語りって意外と難しい、なんか普通の人になっちゃうー。

これともう一つをどこに置くか迷ったのですが、また新しい部屋作るのややこしいのでタイトル変えてお題部屋に置いてみました。