ね むりについた後
長い間、ずっと苛々していた。
俺には大切なものがあったんだ。
守らなければならないものがあったんだ。
けれど、それが何なのか、どうしても思い出せなかった。
それが俺を苛つかせて、どうしようもなく苦しかった。
苦しくて苦しくて……俺は何もわからないまま、ずっと叫ぶように泣いていた。
泣いて、泣いて……気付けば俺は、一人の執行人を前にしていた。
「……現世無断滞在の罪により……」
その凛とした声と共に突然、目の前に巨大な鈴が現れた。
――俺は、これを知っている。
「“魔鈴”の刑に処す。」
魔鈴の刑。
記憶を失った霊に、全てを思い出させ、成仏を促す――
魔法律の中で、一番優しい刑。
そうか。俺は霊になっていたのか。
今さらなことをぼんやりと考えた。
―シャン―
鈴の音に、記憶が溢れ出す。
―シャン―
俺が誰なのか。
俺が昔、何をしていたのか。
それから――
―シャン―
鈴の音の向こうで、執行人が口を開いた。
「……すまねぇ……エビス……」
――ああ、そうだ。
ようやく思い出した。
俺の大切なもの、守らなければならなかったもの……
『ご……りょ……さま……』
―シャン―
最期に見たのが主の泣き顔だったのは、きっと、最悪の終焉だった。
申し訳ありません、五嶺様。
そして――さようなら。
―シャン―
そして俺の意識は、途絶えた。
ifの話。トーマス編で死んでしまっていて、霊になったエビスと、それを裁く五嶺。
死という眠りについたはずなのに、忘れられない思いが、動けと命じた。
自分で書いておいてなんですが、嫌な設定。