いものねだり





ムヒョVS五嶺編(?)で、恵比寿が解雇された時の話です。






嫌な夢を、見た気がした。
内容は思い出せないのだが、ただなんとなく、切なくて寂しかったような気がする。
そんな不思議な余韻に浸りながら壁の時計に目をやれば、針がさすのは5時25分。
起床予定時刻は5時半。
「……あと五分か。」
例え五分でも惜しいので(朝は特にだ)、もう一度肩まで布団をかける。

――三分ほど経っただろうか、遠くから近づいてくる足音で再び目が覚めた。
この静かな本邸でこの時間に近づいてくる人間と言えば奴くらいだ。
毎朝アタシを起こしに来る側近、恵比寿。
(……今日も、あと五分と言いながらできるだけ伸ばしてやろう)
そんな子供じみたことを考えながら、もう一度目を閉じた。
が、しかし。
(……?)
更に近づいた足音に、疑問を感じた。
そして、
「失礼します。……お早うございます、五嶺様。」
そう言って入ってきたのは、いつものダルマではなかった。
……たしか、左近といったか。
「……なんだぃ、今日は恵比寿はどうした?」
覚醒しきらない頭に浮かんだ疑問をそのまま口にすると、左近は少しだけ驚いたような顔をしてから、言いにくそうに口を開いた。
「……恵比寿殿は昨日、若がご解任なさいましたが……」
瞬間、心臓が激しく脈打った、気がした。
「そう、だったねぃ……」
出た声があまりにも弱々しい響きだったことにしまったと思いつつ、うっかり忘れていたよと何でもないように起き上がる。
――きっと上手く演技できたのだろう。左近が「そうですか」と苦笑いしたのがその証拠だと思った。



夢の内容を、思い出した。


あのダルマが、遠くへ行ってしまった夢だった。



ところで……何を突っ立っているのだこいつは。
「……おい。」
「はい?」
「早く袴を取れ。」
「あっ……申し訳ありません!」
真っ青になって探し始めたのを見て、なんだか少しだけ申し訳ない気持ちになった。今日初めてこの部屋に来たのだし、引継ぎも何も無かったから分からないのは当然だというのに。
そう考えている間もうろうろと箪笥の引き出しを開け閉めしているのを見て、
「もう良い。部屋の外にいろ。」
と、つい睨んでしまった。

一人になった部屋で、軽く自己嫌悪に陥る。朝から社員に当たってどうするつもりだ。
ああもう。
何故だかイライラするのは、昨日、霊の瘴気に当てられたのかもしれない。きっとそうだ。
そう自分に言い聞かせて、アタシは十年ぶりに一人だけで支度をした。


















五嶺好きです。五嶺といえば、トーマス編の最初のほうで、車の中でポロリと零れた本音が好きです。