ぐる風に想いを乗せて






肩が、軽く触れ合った。



「あ、すみません」
「いいえ……こちらこそすみません。」
それは妙齢の女性だった。
艶やかな黒髪を長く伸ばした彼女に、何故だかキノは、懐かしいような、それでいてひどく恐ろしいような感情になる。
「……あの、もしかして以前お会いしたことがありますか?」
「いえ……おそらく初対面かと。」
「そうですか、失礼しました。」
ほっとしたキノは、女性が荷物などを何も持っていないことに気付いた。
「……この国の方ですか?」
「いえ、私たちも旅人です。」
「そうなんですか、ボクも……ってあれ?あの、ボクが旅人だって言いましたっ……」
「師匠!」
「あら、おかえりなさい。」
その女性の視線の先には、こちらに向かって走ってくる、少し背が低くてハンサムな若い男。
「すんません遅くなって……あれ、そちらさんは?」
「あ、初めまして、キノと言います。」
「ああ……よろしくキノちゃん。俺はこの人の相棒、というか弟子みたいなもん。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。お弟子さん、ですか。」
「そ。まぁ弟子ってかむしろパシりっていう……」
「では、私達はこれで。」
男の軽口を遮るように女性が軽く頭を下げると、つられてキノも同じようにぺこりとした。
「あ、はい。それでは。」
それを見ながら、男が少しだけ不満そうな声を出す。
「あれ、もうですか?」
「ええ、私たちものんびりしてられないでしょう?」
女性がそうたしなめると、男は残念そうに頷いた。
「あー、そう……ですね。それじゃキノちゃん、お元気で!」
「はい、あなたがたもお元気で。」
「……よい旅を。」
「ありがとうございます。……あなたがたも、よい旅を。」
「ばいばーい。」

最後にもう一度だけ礼をして、キノはエルメスを押しながら通りの奥へと歩いていった。


「今日は静かだったね、エルメス。」
「うん……ねぇ、キノ。」
「なんだいエルメス。」
「あの人たちってさぁ……」
「うん?」
「……ううん、何でもないや。」
「?……変なエルメス。」



一人と一台の姿が見えなくなって、二人は同時に、小さく息を吐いた。
「……あの子が、俺の後の弟子ですね?」
「ええ。大きくなりましたね……」
「見た感じ、腕は良さそうでしたね。」
「当たり前です。私が教えたんですから。」
「ははっ、失礼しました。」
「……さて、それでは行きましょうか。」
「そうですね。」
二人は顔を見合わせて、次にキノが去った方向を、これまた同時に見た。
「「……良い旅を。」」





一陣の風が吹いた。


誰もが、思わず目を瞑った。


そうして風がおさまった時、一組の男女が、まるでその風に乗っていったかのように消えていたことには、誰も気付かなかった。

























補足


弟子はキノのことを師匠からよく聞いていたので、キノ「ちゃん」と呼んでいます。キノがそれに気付くシーンも入れようかと思ったんですが、なんか全体のバランスが悪くなったのでやめました。
あと詳しいことは……もう感覚で読んでください。