最初に見たときは、必死で助けようとした。
「・・・望月?お前、何して・・・」
終わらない鎮魂歌を歌おう―終焉と始まり―
学校の屋上。
少し冷たい秋風。
空に広がる鰯の群れ。
そして今いるところから少し離れて、ぐるりと屋上を囲むフェンス。
その向こう側に・・・彼は立っていた。
「ちょ・・・望月・・・え?なんで・・・」
目の前の光景になかなか頭がついていけない。
何故、望月がここにいるのか。
自分はどうしてここにいるのか。
望月はあそこで、何をしようと・・・
刹那、昔の光景がフラッシュバックした。
『KEEP OUT』のテープ、血だまり、パトカー、そして・・・
「――ちょ、なんっ・・・」
突然その理由がわかった耕太は、慌てて望月に駆け寄ろうとする。
しかし、
「!?」
足が、その場に縫い付けられているかのように動かない。
「ちょっ、何だよこれっ!動けよ!」
必死にもがこうとするが、「見えない力」は耕太を押さえつける。
「望月ぃっ!!」
風が震える。
突如、地面が、景色が・・・空間全体が歪んだ。
覚醒の合図。
ユラグ、ソラ――
何もないところへ、一歩踏み出す足。
「もっ・・・」
反転。
「・・・ちづき!!」
叫びながら飛び起きたそこは、いつもどおりの、本部廊下の長椅子だった。
「夢・・・か・・・」
ほぅ、と息をつくのと同時に、夢の中の光景がフラッシュバックして、体がびくりと跳ねた。
二度目のときも、同じだった。
ただ彼の名を叫ぶことしかできずに・・・彼は後ろ向きに掴んでいたフェンスを離し、ゆっくりと、前に体重をかけて――
「望月・・・!!」
何も、できなかった。
そして今、それらを思い出しながら耕太は三度目の屋上にいた。
「また・・・この夢・・・」
望月・・・お前が俺に、これを見せているのか?
救えなかった俺を・・・責めているのか?
それとも、伝えたいことでもあるのか・・・?
「・・・ちくしょぉっ!!」
(どうして俺は、何もできないんだ・・・!!)
無力な自分が許せなかった。
(どうせ助けられないなら・・・)
ぎり、と歯軋りをして俯いた。
(せめて早く・・・早く終わってくれよ・・・!)
ただ、それだけを願った。
その願いが通じたのか、やがて俯いたまま見ていた地面がぐにゃりと歪んだ。
(ああ・・・)
思わず耕太は安堵の溜息をついた。
(やっと終わる・・・)
そう心の中で呟いて、目覚めへの感覚に身を委ねた。
その時、
『助けて・・・』
(・・・え?)
薄れゆく夢の片隅で、望月の声を聞いた気がした。
今まではずっと叫んでいたため聞こえなかったのか、
それとも今回何もしなかった自分に対しての言葉なのか、
理由はわからずとも、確かに――聞こえた気がした。
「・・・で?あんたは結局動かなかったんだ?」
上司―やよいの物言いに少々ムッとしながら、耕太は言い返す。
「だから動けなかったんだって。」
「一体どうしてそんな夢を見るのかしらねぇ。ていうか助けようとしてたら今回は助けられたかもよ?」
なおも続く言葉に少しだけ顔をしかめて、
「知らねぇよ。」
そう言って耕太はフイと顔を背けた。
「ただの夢なんだから。」
「ただの夢・・・ねぇ・・・」
足を揺らしながらまだ何か言いたげなやよいに、耕太は相談したことを後悔し始めていた。
その時、タンっとやよいが足を鳴らした。
「何故彼は、“助けて”なんていったのかしらね。」
「え?・・・や、うん・・・でもホントにそう言ったのかは曖昧だし、それにやっぱ・・・」
「夢だし、で片付けるつもり?」
「・・・さっきから何だよ、やけに絡むな・・・まぁ話し始めたのはこっちだけどさ。」
そう大きく溜息をついて、耕太はぼそりと呟いた。なんとか話を終わらせたかった。
「辛いのはこっちだっつーのに・・・」
「・・・そうね。・・・でも、本当に辛いのはきっと・・・いや、あんたならわかってるわね。」
やよいの頭の中には、いつか見た葬式の光景が浮かんでいた。
コイツは、コイツだけは、彼のことを大切に思っていた。きっとそれは、今だって変わってないはずだ。
・・・けど、
「・・・一つ、言っておくよ。あんたは“動けなかった”って言ってたけど、」
そこで一旦切って、耕太を見る。
「その足を動かなくさせたのは誰なのか。」
その言葉に、耕太は顔を上げた。
「俺の足を・・・動かなくさせたのは・・・」
「・・・それが分かれば、きっとそれが答えに繋がる。恐れることなんて、何もない。あんたはただ、望月君が生き続けることだけを願いなさい。」
「やよいさーん、そろそろ時間ですよー」
「あ、はーい。そんじゃあ行くわ。・・・あのさ、」
「ん?何だ?」
「ううん・・・今度は・・・救ってあげられたらいいわね。」
そう言って微笑むと、やよいはふわりとその場を後にした。
それを目線だけで見送って、耕太は椅子に深く腰掛けた。
さっき言われたことを、頭の中でリピートする。
――その足を動かなくさせたのは誰なのか
――それはまぎれもない・・・自分だ。
その瞬間、耕太は例の屋上にいた。
しかし、耕太はもう逃げようとはしなかった。
――きっと、心のどこかで恐れていた。あの光景に、繋がる気がしたんだ。
けど。
『恐れることなんて、何もない。』
(そうだ。恐れることなんて何もない。第一、俺はまた・・・何もできないでいる。こんなんじゃ・・・死神になった意味ねーじゃんか!!)
「――っ望月ぃ!!待てよ望月!早まったことすんじゃねぇ!!望月!!」
その場から、あらん限りの声を張り上げる。しかし、届いているのかいないのか・・・望月はまったく反応を見せず、今にも手を離して落ちていってしまいそうだ。
「くそっ・・・動けよ!この足っ・・・何で動かねーんだよっ・・・望月が・・・望月が死んじまうってのに!!このっ・・・!!」
やはり無理なのか――そんな考えが耕太の頭を掠める。
その時、ふいにやよいの言った言葉が頭に浮かんだ。
―あんたはただ、望月君が生き続けることだけを願いなさい―
「・・・っ、望月!!・・・俺とっ!俺と一緒に生きるぞ!」
一緒に生きよう。二人で、どこまでも歩いていこう。
「望月ぃぃ!!」
その言葉と同時に、ふっと足が軽くなった。
「うおっ!?」
いきなりのことでバランスを崩しながらも、耕太は望月に向かって、走った。
「もちづ・・・」
そうして望月をフェンス越しに掴もうとした瞬間――
望月が、振り向いた。
「『岸根君・・・?』」
そこで耕太は目が覚めた。
寝起きでぼんやりとしている耕太を、ひょいっと覗き込む影。
「岸根君・・・まだ寝てるの?」
「望・・・月・・・!?」
驚いて顔を上げた耕太の目に飛び込んできたのは、親友――望月の顔だった。
「あ、おはよう。」
「え・・・お前、何でここに・・・」
「岸根君を待ってたんだよ。次、移動教室だよ?」
その言葉で周りを見回すと、そこは懐かしい、中学のときの教室。
そして自分も、望月と同じように中学の制服に身を包んでいた。
「中・・・学?俺ら、中学生・・・?」
「・・・もしかして寝ぼけてる?」
「だって、俺は死神で・・・」
「ぶっ」
突然望月は吹きだした。
「ちょっ、死神って・・・しっかりしなよ、岸根君らしくないよ?」
「なっ、でも俺、確かに・・・」
「うんうんわかった、とりあえず生物室行こう?先に行っちゃうよ?」
寝ぼけていると思ったのか、望月は気にする様子もなく歩き始めた。
「え・・・ちょ、待てって・・・」
慌てて耕太も教科書―望月が用意しといてくれたらしい―を引っ掴んで後を追いかけようとして・・・
「あ・・・」
望月の後ろ姿が、あの光景と被って見えた。
「・・・望月!!」
「ん、何?」
今度はちゃんと振り返ることに安堵しながら、耕太は続けた。
「お前・・・死ぬんじゃねえぞ!?」
「え・・・いきなり何で?」
「何でもいいから!何でもいいから、絶対に、絶対に自殺とかすんなよ!?俺が・・・俺が一緒に、歩いてやるから!何処までも歩いてやるから!!」
呆気にとられた顔をしていた望月だったが、最後の耕太の言葉に何かを理解したのだろうか、
「・・・うん。ありがとう、岸根君。」
そう言って笑った顔は、心からのそれに思えた。
「さ、行こう?」
「・・・おう。」
そう言ってようやく、2人並んで歩き始めた。
『俺が一緒に、歩いてやるから!何処までも歩いてやるから!!』
「・・・僕、もう少し頑張ってみるよ。」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何でもない!」
今までのことが夢だったのか、この結末こそが夢だったのか。
「・・・ま、それについては“神のみぞ知る”ってことでいいんじゃない?この世界には、知る必要もないことなんてたくさんあるんだから。・・・ね。」
そう呟いたのは。
後書きと言い訳の狭間で
はい。一番ありえないお話です。パラレルもいいとこです。
しかもこれがハッピーエンドなのかどうかすらわかりません。
どこに何が繋がってるのか。謎です。マジスミマセン。
―ここから言い訳―
えっと、このお話を思いついたのは、実は去年のお祭りでなんです。
去年もwebドラマを設置していたのですが、そのストーリーの中で、望月くんがドラクエかなんかの呪文で生き返るという件がありまして。
それに耕太が喜ぶのですが、生き返った望月くんには死神である耕太が見えないという・・・なんかそんな感じ。こうして書くとちょっと暗いですが
その時のテンポやノリはかなり明るかったです(笑)
というわけで。何が言いたかったかというと、望月くんと耕太が「二人とも」生きられるような話(と書いてモウソウと読む)が書きたかったのです。
・・・最初っからそう言えばいいじゃん。
そうだ。サブタイトルは有名な終わらない〜のテーマソングから引用させていただきました。
えー、しめ方がわからないので、とりあえず一番言いたいことを。
タイキさん、お誕生日おめでとうございます!!