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終わることだけをひたすら恐れた。 まだ何も始まってすらなかったのにね。 だからこそ、そんな私を卒業しようとした。 何かをするために、踏み出そうと思った。 このまま思い出だけを胸に生きることなんてできない。 だから私は、一か八かの賭けをしようとした。 そしてそれは……実行する前に終わってしまった。 終わらない鎮魂歌を歌おう―小さな恋の歌。― 死神16142号――通称耕太は、今回の仕事を終えて、本部に帰ってきたところだった。 そして次の仕事の内容を確認しようと歩いていたとき、 「何やってんだお前!!」 突然の怒鳴り声に、耕太は思わず身をすくめた。しかし見回してみると、怒鳴られたのは耕太ではなく、 「す、すみませんっ!」 耕太の少し後に入ってきた、同じく新米の、死神16208号だった。下を向いて震えている。 めずらしい、と耕太は思った。その新米死神は、普段からとてもしっかりしている、いわゆる「優等生」だったからだ。 他の死神もそう思ったのだろうか、ほとんどがその2人のやりとりに注目している。 「ったく、なんてことをしてくれたんだ!魂を逃がすなんて!」 うぇ、と耕太は小さく舌を出した。自身にも同じような経験があったから。まぁその時は、上司の力を借りて、無事に済んだのだが。 それにしても、と耕太は思った。 (怒る前に、さっさと探しに行きゃいーのに。) 逃げた魂は、救われないまま彷徨うことになる。 そしてそのまま救いの手がさしのべられなければ、その地に縛られてしまったり、最悪の場合、我を忘れ、人を呪う、 いわゆる「悪霊」となってしまったりするのだ。 その上司も同じことを考えたのだろうか、ひたすら怒鳴っていたのをやめて、何かを言いかけた。 と、その時。 「っでもっ、でもっ……」 16208号が、初めて顔を上げた。その表情は、青ざめていた。 「私、襲われたんですっ、その人に……!」 そう言って、彼女は長い髪を後ろにどけた。 そこには、首を絞めたような手形が、くっきりと残っていた。 その場が、凍りついた。 「マジかよ……」 誰かが呟いた。 魂が死神を襲う、それはよほど「思い」が強く、また、我を忘れているという証拠。そして、強すぎる思いは…… 「悪霊」に、変わりやすいということ。 そうなってしまえば、もう普通の死神では手を出せない。三桁の死神でぎりぎりというところか。 また、悪霊は人間を襲うだけでなく、死神もまた、それらの標的となるのだ。 だからこそ、早く止めなければならない。 『死神全員に通達する!本日午後2時40分頃、魂が一人、死神を襲って現在行方不明!おそらくまだ死亡場所付近に いる、発見したらすぐ本部に知らせるように!』 「……はいはい、っと。魂が逃げた、か。厄介なことにならなきゃいいけど……。」 そう呟きながら、やよいはたった今連絡を伝えてくれたケータイをしまって、廃ビルの屋上の手すりに腰をかけた。 その時、ふわりと、後ろで気配がした。まさかと思い、やよいは振り向く。 そこにいたのは、うつろな目をした、16・17ぐらいの少女。迷い子か、それともまさか……。 (とりあえず、何か話しかけないとね。) 「……、こんにちは、こんなところでどうしたの?あ、私は死神841号……」 だが、「死神」という単語が出た瞬間、空気が冷たくなった。 「死、神……?……いや、いや!私はまだ行かない!まだ行かないっ!!」 少女が叫ぶのと同時に、強い衝撃波がやよいを襲った。 「ちょっ……やっぱりあんた……!!」 よろけた瞬間、二度目の衝撃波。 「くっ……」 からん、と音を立てて、やよいの手から鎌が落ちた。同時に、視界がぐらりと揺れる。 気付けばやよいは、地面に押さえつけられていた。 「はなっ……放しなさい!」 叫ぶ声も、彼女には聞こえていないのか、必死な表情のまま、押さえる手に更に力を込める。 「――っ、あ、ケータイっ!」 かろうじて自由になる左手で先ほどしまった携帯を取り出し、本部にコールした。 『こちら本部。ご用件をどうぞ。』 「こちら841号!本部っ、誰か来て!N−725地区の9ポイント!早くっ!」 少女の関心は携帯には向いてないらしく、やよいが話していても携帯を奪ったりはしなかった。 それだけが唯一の救いといったところか。 (この場で救いも何もないんだけどね……っていうか、この子……) 「何……あんた一体何なの!?」 そうやよいが叫んでも、少女の表情は変わらず、ただ「いや……行かないわ……」と繰り返し呟いている。 腕の力は、増すばかり。 なんとかしようにも、相手の思いはかなり強い。 と、その時。肩を押さえていた腕の片方が、首に伸びた。 「ぐっ……」 続いて、もう片方の手も。 首を絞められ、声にならない声が漏れる。 自由になった手を動かして少女の手をどけようと抵抗するが、少女はものともしない。 ――やばい。 本格的にそう感じた、その時 「やよいっ!」 その声に少女は振り向き、そしてやよいから離れた。 同時にやよいも少女と距離をとり、やってきた耕太に向かって叫んだ。 「げほっ、なんであんただけなの!?」 「ワリィ、今ちょっと本部もごたごたしてて、通信聞いたの俺だけだったみたいで!そんでとりあえず来た! てかターゲット見つけたんならそう言えばよかったんだって!」 「あー、ゴメン。……っ、コータ後ろ!」 やよいが叫ぶのと同時に、耕太の体は少女の衝撃波によって飛ばされた。 「コータッ!」 「くっ……」 なんとか体制を立て直した耕太の目に入ったのは、逃げていく少女。 「コータ捕まえてっ!」 「わーってる!」 後ろからの声に答えて、耕太は少女を追いかける。そうしてもう少しで捕まえられるという距離になって、 「このっ!」 耕太が少女に手を伸ばそうとしたとき、耕太の耳に、はっきりと届いた。 ――先輩……私……―― 「……え?」 耕太は思わず止まった。その隙に、少女は逃げ去ってしまった。 「ちょ、コータっ!あの子は!?」 「あ……やべ、逃げられた。」 「あー、もう……」 ようやくやよいが追いついてきた。そして彼女は、耕太に尋ねた。 「……どうしてさっき止まってたの?」 少しの間があって、耕太は答えた。 「……泣いてた気がしたんだ。」 「泣いてた……?」 本部、第一営業課。 「――以上で報告を終わります。」 やよいがそう言い終わったのを聞いて、死神511号――第一営業課課長は静かに頷いた。 「ご苦労様。あとは任せてくださいな。」 その言葉を聞いて、やよいと耕太は顔を見合わせた。 そして、 「課長。」 やよいは511号の前に進み出た。 「この件、私に……」 「俺たちに任せてもらえませんか!?」 やよいの声をかきけすように、後ろから耕太が叫んだ。 「え!?ちょっ、コータ何であんたが……」 「……いいですよ。その代わり、失敗したときは、わかっていますね?」 「えっ、あ……」 「はい、ありがとうございます!」 「あ、ありがとうございます課長。」 「……で、何であんたもついてくんの?私だけで十分だって。」 「いやいや、最初にあいつのサインを受け取ったのは俺だし。」 「いやいやいや、最初に遭遇したのは私だし。」 「いやいやいやいや、第一逃がしちまったの俺だし。」 ぶっちゃけあの子ほっとけないし、と耕太は苦笑した。 そんな彼に、やよいは“負けた”というように肩をすくめてみせた。 「……じゃあ久々にタッグといきますか。」 「うぃ。」 『こちらN−725地区の9ポイント。目標の姿なし。そっちは?』 「こちらM−368地区5ポイント。同じく目標の姿なし。次もうちょい東の方行ってみる。」 『おっけ、こっちは南の方行ってみるわ。』 そんなやり取りが何度も続く。魂は、まだ見つからない。 仕事は変わってもらった。本来なら滅多に許されないが、今だけは、この件が最優先である。 だからこそ、早く見つけて、間に合ううちに救いたい。救わなければ。 自然と気持ちが焦っていくのを感じて、耕太はゆっくり深呼吸をした。 そうして気合を入れなおした、その時。 「……見つけた。」 ふわりふわりと、彼女は漂っていた。 無表情で、何処を見つめているのかもわからなくて、それでもその瞳には、涙が溢れていた。 そんな彼女を見て、耕太はしばらく言葉を失った。 が、ハッと我に返り、急いで携帯をとりだしてやよいにかける。 「やよいっ……見つけた、M−957地区の、3ポイントっ……!」 『!……わかった、すぐ行くから待っててよ!』 「やよい、こっちこっち。」 「あの子は?」 「あそこ。」 耕太が指差した先には、あの少女がまだ漂っていた。 「さっきからずっとああしてるんだ。……です。」 「今頃敬語思い出したの?まあいいわ。じゃ、行くわよ。」 「了解っ」 「……こんにちは。」 その呼びかけに、少女はゆっくりと、2人のほうを向く。 途端、少女の表情が一変した。 「いやぁぁぁっ!!」 耳に響く悲鳴と共に、再び、例の衝撃波がくる。 それを予期していたのだろう、やよいと耕太はサッとよけた。が、 「わわっ……」 運悪く、その衝撃波がやよいの鎌に当たってしまい、鎌はやよいの手から離れて下へと落ちていく。 その鎌を、さっと少女が取った。 「あっ!」 スイッと、少女が構える。その持ち方は、おそらく剣道か。 「この子剣道部かよ……」 「みたいね。まあ鎌と剣道はそんなに関係……」 言ってるうちに、少女がさっと間合いを詰めて鎌を振り下ろす。 「「なくもなかったー!!」」 「なんでこんなことするの!」 やよいの問いかけに、少女は初めて反応した。 「私はっ……私は、まだ死にたくない!だからっ、こっち来ないで!」 やよいの鎌を振り回し、泣き叫ぶ彼女。 「うわっ!」 「ちょ、やめなさいっ!」 「来ないで来ないで来ないでぇ!私を連れていかないで!」 「ちょっと……!」 「やめてぇ!いきたくない!だって、私まだ……!!」 「笹原柚真!!」 びくりと、彼女の動きが止まった。 「笹原柚真、どんなに抵抗しても無駄よ。だって、自分でもわかってるでしょ?」 「やめて……言わないで……」 がらりと鎌を落とし、震えながらあとずさる柚真。そんな彼女を、素早く耕太が掴んだ。 「きゃっ……」 そしてやよいは、まっすぐ柚真を見つめて、言った。 「……あなたはもう、死んでいるのよ?……もう、元には戻れないの。」 「いやぁぁぁーーーっっ!!!」 やよいの言葉をかき消そうとするかのように柚真は絶叫し、顔を押さえて崩れ落ちた。 その肩に、そっと耕太が手を置く。 そうして泣き叫ぶ柚真の声を、2人の死神はつらそうに聞いていた。 「……先輩が、好きだったの。」 すっかり落ち着いた柚真は、ぽつりぽつりと話し出した。 「だから、伝えたかった。それと、謝りたかった。」 「謝る?」 耕太が尋ね、柚真はこくりと頷いた。 「ケンカ、したの。バカなことで。というより、先輩に正論すぎる正論を言われて、私が生意気に反発して、 そんで険悪になっちゃった、ってだけなんだけど。」 だから、と彼女は言った。 「……だから、謝りたくて、伝えたくて、それで逃げたのね?」 「……ごめんなさい。」 あーあ、と柚真は空を見上げた。 「結局伝えられなくて、しかもケンカしたまま終わるなんて、私の人生、最悪だったなー……。」 声のトーンは明るめだったが、無理矢理納得してふっきろうとしているのは明らかだった。 そんな柚真に、やよいは声をかけた。 「……じゃあ、伝える?」 「え?」 柚真が驚いた様子でやよいを見た。 「……伝え、られるの?」 「あなたが望むならば。」 やよいは頷いた。 「……伝えたい!伝えたいです!」 「じゃ、決まりね。」 心底嬉しそうな柚真を見て、耕太はやよいに尋ねた。 「……また、実際に会わすのか?」 「いんや、この場合、もっといい方法がある。」 「「いい方法……?」」 柚真と耕太が不思議そうにハモる。 「そ。……夢。その先輩とやらの夢に入るのよ。実際に人間とあわせると、家族とかよほど心の繋がった人じゃない限り、 その人間が覚えるのは、恐怖。……それじゃ告白もできないでしょ。」 「……なるほど。」 頷いた柚真に、やよいは困ったように笑った。 「でもね……、一つ欠点があるの。それでもいい?」 「どんな……?」 「ほとんどの場合、起きたときにはもう、その夢を覚えてないのよ。だから、あんたの告白も……」 その言葉に柚真は少しだけ俯いて、すぐに顔を上げた。 「……それでもいいです。伝えられるなら。」 「本当に?」 「はい。」 はっきりと、柚真は答えた。 その言葉に、やよいは満足げに微笑み、そして今度は楽しそうに話し出した。 「さってと。じゃあどんなシチュがいい?」 「え?」 疑問符を浮かべる柚真に、やよいはにやりと笑った。 「夢だから、どんなシチュでもいいんよ。お望みのまま。」 「ホント?」 「ええ。」 それじゃあ……と柚真は少し考えて、そっとやよいに耳打ちした。 「あの…………」 「……了解♪」 「ちなみにその先輩とやらの名前は?」 突然の耕太の質問に、柚真は顔を赤らめて、少しだけ嬉しそうに言った。 「……猪口裕司。」 猪口裕司は、学校のグラウンドに立っていた。 横ではサッカー部とラグビー部が活動し、耳には吹奏楽部のパート練習の音が入ってくる。 何の変哲もない、いつもと同じ風景だ。 それにしても、自分は何故ここにいるんだろう。 彼は考えた。 しかし、頭がぼんやりとしてしてうまく考えられない。そんなことをしていると、 「先輩っ!!」 後ろから声をかけられ、彼は振り向いた。 「……笹原。」 「お待たせしました先輩!」 ぴっ、と敬礼の仕草をする柚真。 「あー、てかゴメン、俺何でここにいるのか知らね?」 ってわかるわけねーよな、と苦笑する裕司に、柚真はいいえと答えた。 「私が呼んだんですよ。」 「にしても、何で学校なんだ……?ムード出して海とかにすりゃいーのに。」 「はっ。これだからコイツは。」 ぼそりと呟いた耕太を、やよいは鼻で笑った。 「な、なんだよ。」 「だからアンタはいつまでたっても耕太なのよ。」 「いや意味わかんねえよ。ってかお前全国の耕太さんに謝れよ。」 「黙れ新米。」 「はい。」 「とにかくね……いい?あの子とあの先輩にとって、学校ってのは、共通した思い出が一番ある場所なのよ。 だからこそ、その中で言いたかったんでしょ、あの子は。」 「あー、なるほど……」 「……まぁ、最後にもう一度、『日常』に戻りたいって思いもあるんでしょうけど……」 「……」 「私が呼んだ」という言葉に、裕司は軽く首をかしげた。 「え、あ、そーだっけ?」 「そーですよぉ。まぁ先輩がわからないのも無理ないですけどね、勝手に呼んだんですし。」 そう言ってからからと笑う柚真に、ふと、裕司は言葉以外にも軽い違和感を覚えた。 「てかごめんなさい、突然呼び出して。でも私、二つだけ、どうしても言いたいことがあったんです。」 ――言いたいことが“あった”……?―― ――……過去形?―― 少し引っかかりを覚えた彼の頭を、あることがよぎった。 (あれ?確か笹原って……) そして唐突に、彼は理解した。 これが、夢であることを。 そしてそれを感じ取ったのか、柚真は言った。 「これは夢ですけど、でも、私は夢じゃないですよ。……ホントの柚真です。」 その意味を掴めないでいる彼に、柚真は言い換えた。 「先輩の夢にお邪魔している、笹原柚真の“魂”です。」 その言葉に、裕司はたじろいだ。 「じゃあ……お前が夢に出てくるってことは……俺のこと、恨んでるのか……?」 見当違いの裕司の言葉に、柚真は慌てて言った。 「ちっ、違います違います!!私がそんなことするわけないじゃないですか!」 「なら、どうして俺の夢に……?」 裕司は訝しげに柚真を見た。 そんな彼に、柚真はにっこりと微笑んだ。 「さっきも言ったとおり、言いたい事があったんです。だから先輩に夢として会いに来たんです。」 「……言いたかったことって……?」 「……ごめんなさい。」 柚真は深々と頭を下げた。 「へ?」 予想もしなかった言葉に裕司はきょとんとする。 「何が?」 「ほら、この前言い合いになって……」 ああ、と裕司は頷いて、恥ずかしそうに笑った。 「……いや、あれは俺も言いすぎたから……ゴメン。」 裕司の言葉に、柚真は安堵の息を漏らした。 「……よかったぁーっ、先輩まだ怒ってるかと思ってましたよー。」 「おいおい、俺そんな根に持つ人間じゃねーよ。」 「あはは、それもそうですねー。」 そうして2人して笑った後、柚真はスッと真面目な表情になった。 「それと、もう一つは……」 一旦区切って、小さく深呼吸する。心なしか、顔が赤い。 「……私が入部して、もう一年以上経ちました。その間、いろんなことがありましたよね。合宿とか、カラオケ大会 とか、あっ、みんなでごはん食べに行ったりもしましたよね。……本当に、楽しかったです。」 ひとことずつ噛み締めるように、柚真は言う。 「それで……先輩覚えてます?いつかの試合の前、緊張していた私に、「お前なら出来る、自信を持てよ。」って言ってくれましたよね。……それがすごく、嬉しくて。あの時から、ううん、それ以前からずっと……先輩のことが気になってました。」 「先輩が、……好きです。」 「え……」 少しの間があって、裕司はようやくその言葉に反応した。 同時に、彼の顔が赤く染まる。 そうしてまたしばらく間があって、 「えっと、その……」 俯いて、一言、彼は言い放った。 「……ごめん。」 柚真の体が小さく震えた。 「ごめん。」 もう一度、彼は繰り返した。 「……ありがと、先輩!」 顔を上げた裕司が見たのは、優しく笑っている柚真だった。 「ありがとうございます先輩、すっきりしちゃった。」 そう言って、彼女は上を見上げた。そして、 「死神さんっ!」 柚真が空に向かって呼び掛けると、すいっと2人が姿を現した。 「!?」 驚く裕司に柚真は微笑みかけて、再びやよいたちの方に向きなおった。 「言い終わったよ。時間をくれてありがと。」 「どういたしまして。」 「……お前は救われたのか?」 「うん。」 耕太のとまどいながらの質問に頷いた直後、柚真の体が、ゆっくりと透けだした。 「え、おい、笹原!?」 驚き焦る裕司に、柚真は苦笑しながら言った。 「……もう行かなくちゃいけないんです。……私、先輩に会えてよかった。」 「―っ、ささは……」 「さよなら、先輩。」 掴もうとした柚真の手は、すっと消えた。 否、 柚真自体が、消えた。 しばらく放心状態だった裕司は、ふとやよいたちを見た。 「……てかさ、あんたたち……誰?」 「……あの子を救うために来た者よ。」 「救う……?」 「そ。それより、あれでよかったの?」 「何が?」 「本心じゃないでしょ、あの言葉。」 やよいの言葉に裕司は少しだけ驚いて、苦笑した。 「気付いてたんか。……この方が、あいつもきれいさっぱり諦められんじゃん。俺のことも、……なくした未来も。」 「だから嘘ついたの?」 「嘘?」 クエスチョンマークを浮かべた耕太をちらりと見て、 「……嘘じゃないっすよ。……死ぬ前に言ってやれなくて、ゴメンってこと。俺も同じだったって。」 「じゃあお前、ホントは柚真のこと……」 「いいんだ。」 最後まで言おうとするのを遮って、裕司は笑おうとした。 「……これで、いいんだ。」 細めた目から、涙が零れ落ちた。 夢を見た。 何の夢だったかは覚えていない。 ただ、ひどくせつなかったような気がした。 だから、何故かはわからない。わからないのに―― 涙が一筋、頬を伝った。 <終> 解説:衝撃波というのは、柚真の気持ちが力となって、生まれたって感じです。この説明もわかりにくいですね(苦笑 あとちょこっと。 笹原柚真:高校二年生。事故死。とにかく一途。 猪口裕司:高校三年生。柚真の好きな人。 |