―終わらない鎮魂歌がふと止んだ―
最近、上司が元気ない、ように見える。
いや、特に変わった様子はないのだが、雰囲気がなんとなく、沈んでいるように思えるのだ。
それでしばらく気になっていたが、このたび勇気を出して聞いてみた。……のだが、
「へ?」
あまりにも間の抜けた顔で返された。
なんだ思い過ごしか、と考えて何でもないと言って去ろうとした。
「まさかあんたに見破られるとはねぇ……」
その言葉に振り返ると、俺の上司は、困惑したような表情で笑っていた。
「夏は嫌いなんよ。」
そのぽつりと漏らされた言葉に、俺はしばらくフリーズすることを余儀なくされた。
だってアレだぞ。流れ的に言って、彼女が返すべき言葉は、俺が、気分が沈んでるように見えると言ったことについての肯定および理由だろう。
しかしながら返ってきたのは、あまりにも子供染みた言葉。
普通訳が分からずに動けなくなるだろう、常識的に考えて。
だがそんな俺の考えも、次のやよいの言葉で一瞬にして消えた。
「夏は嫌いで……、夏の終わりは……もっと嫌い。」
夏の終わり……というのを聞いて、俺は一つ思い出した。前に聞いたことがある。
こいつが死んだのは、関東大震災……9月1日だったと。
もしかして、と思ったが、口に出す勇気はなかった。
その代わりに、
「……俺も、夏の終わりは嫌いだ。溜まった宿題の山……あれは悪夢だ。」
今もトラウマだ、と大袈裟に首を振ると、やよいは少しだけきょとんとして、それから声をあげて笑った。
「あははっ、溜めるからそうなんのよ、ちゃんとこつこつやってたらそんなことないんだから。」
それを見て、よかった、と素直に思った。
いつもの上司だ、と。
そんな俺の安堵を知ってか知らずか、やよいはからからと笑っている。
大きな声では言えないが、俺は彼女のこんな笑顔が大好きだ。いや、勘違いしないでほしいのだが、別に特別な感情があるというわけではない。
例えていうなら、猫が昼寝してるのを見るような、子どもが嬉しそうにアイスを食べてるのを見るような、なんかそういう感覚なのだ。
それで何が言いたいのかというと、ずっと、それがそこにあってほしいと、思ったのだ。
その笑顔が。彼女の元に。
だから、
『来年も、この時期が来たらあいつを笑わせてやろう。』
『忘れることはできなくても、紛らわすくらいなら、きっといける。』
『だから。』
こんなことを考えてしまっても、俺は別におかしくない。
と、思う……。
「……?何見てんのよ。」
「んあ、や、別に。」
変なの、と彼女はまた微笑む。
それだよ。
心の中で呟いて、俺も一緒にへらりと笑った。
無限に繰り返される夏の中で、生まれたのは、ひとつの決意。
―あとがき―
やよいさんだってたまにはブルーになるんです。たぶん。
耕太は思いやりのある人です。ぜったい。
そしておまけ。魂と死神。イラスト付き参加なんて私、初めてですよ。