“あんたに会いたいって子がいるよ”




上司にそう告げられて、岸根耕太―現在、死神16142号―が向かった先にいたのは、
「岸根君、久しぶり。」
「望月!?なんでここにっ……!?」
中学時代の親友だった。


をつないで、どこまでも。



「ちょっと挨拶しにね。」
「……挨拶?」
「うん。僕、生まれ変わることになったんだ。」
その言葉に、耕太は顔には出さないようにしながらも驚いた。
誰でも、死んだからにはいつか生まれ変わることになる。だが、耕太は頭の片隅で気にし続けてきた。
望月の辛い記憶、それを乗り越えて、もう一度生まれ変わりたいと彼が思えるかどうか……
けれども今、目の前にいる彼は、満面のとはいえないけども、それでも笑っていた。
だから耕太も、つられて笑った。
「そっか、頑張れよ。」
「うん。ありがとう。」
久々に見た少年の笑顔は、死神の目頭を熱くさせるのには十分だった。
「……それを言いに来てくれたのか?」
「うん、あのね、生まれ変わったら僕、郡山優太って名付けられるんだって。優太って、いい名前だよね。」
「そうだなぁ。」
「ね、ちゃんと覚えててね。郡山優太だよ。」
「わーったわーった。」
「絶対覚えててよ?それで、次は岸根君が案内してね。」
それを言いに来たんだよと言う望月に、耕太は頭をかいてみせる。
「んあー……めんどい。」
「ひどっ!」
喋っている間に、昔の調子を取り戻してきたことようだった。
まるで中学時代に戻ったようだ、と耕太は思った。
「ははっ、冗談だって。そうだなー、80歳以上まで生きたら引き受けてやるよ。」
「うーん、頑張るよ。」
「てか心配なのはお前だよ。前世の記憶とかなくなるんだろ?なら俺のこと忘れちまうだろ。」
「あ、そうだね……でも大丈夫だよ、岸根君に会ったらきっと思い出すから。」
「ほっほーう?その言葉も忘れんなよ?」
「大丈夫だよ……たぶん。」
「多分かよ。そうだ、お前空手とか柔道とかやれよ次は!そんで強くなって、何か言ってきたり殴られそうになったら返り討ちにしてやれ!なんだっけ、攻めの守りってやつだ!」
「ちょっと違う気がするけど……というかこの会話も絶対覚えてないよね。」
「気合だよ気合。」
「岸根君の口から気合なんて言葉が出るとは思わなかったなー。」
「何をっ!?」
「あははははっ」
ひとしきり笑って、でもね、と望月は伏せ目がちに話し出した。
「……ホント言うとさ、怖かったんだ。またあんな目にあうかもって考えたら……」
「……」
「でも、よく考えたら嫌なことばかりじゃなかったんだ。だから……もう一度、行ってくるね。」
「……そっか。」
「うん。そう思えたのは、きっと岸根君のおかげだよ。」
「え!?」
「照れてる?」
「なっ、てっ、照れてねぇよ!」
「あははっ、でも、ホントだよ。」
「……」
「本当に、感謝してるんだ、岸根君には。」
「……わーった、わーったから、もうこれ以上俺を照れさすな。」
「あははは、やっぱり照れてるんじゃん。」
「ぐ……」
完全に負けた耕太は、なんだか悔しくなってフイと顔を逸した。
そんな友の横顔を見て、望月はふと呟いた。
「……また、岸根君みたいな人と友達になれたらいいな。」
「……なれるさ。俺なんかよりもっといい奴と。」
その言葉に望月は反論しようとしたが、それが耕太なりの励ましであることに気付き、開きかけた口を閉じた。
そんな望月の様子に耕太はふっと笑って、少しだけ考えてから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あのさ、これ、上司の口癖なんだけど……」
「何?」
「“人はみんな寂しがりやだ。だから人は、独りぼっちじゃ歩けない。”」
「うん。」
「“でもそれは、一緒に歩いてくれる人がいれば、”」
「うん。」
「……“どこまでも、歩いていけるということだと思う。”」
「……うん。」
「だから、……俺はもう、一緒に歩くことはできねーけど、でも、……」
「うん……」
「うん。」
「うん?」
「〜〜あ゛あ゛!!」
「え!?なっ、何!?」
「言葉が見つかんねー……望月、手!手ェ出せ!」
「え?え?」
耕太の奇声に驚きながらも、望月はそっと右手を差し出した。
その手を力強く、耕太が握った。
「俺がこうして、手を繋いでるから。お前がどこまでも歩いていけるように、繋いでるから。だから……」
「“だから”?」
「……矛盾してんのはわかってんだけど、それでも……忘れないでいてほしい、っていうか……」
頬をかきながら言葉を探す耕太に、それまで微笑んでいた望月が、少しだけ泣きそうな顔をした。
「……わかった、絶対忘れないよ。絶対……」
ありがとう。
小さな声が、震えていた。


「今度はもう、立ち止まらないよ。」
「ああ。ちゃんと見てっからな。」
「うん。……じゃあね、岸根君。」
「……元気でな、望月。」

そうして魂は死神に見送られて、輝く光の向こうに、歩いていった。
振り返ることなく、立ち止まることなく、歩いていった。



〜エピローグ〜


郡山優太、15歳。現在空手部に所属。昨年の県大会では3位入賞。
ちなみに入部動機は「フィーリング」。
そんな彼は一つ、変わった癖を持っていた。


「郡山君って、よく右手の上に左手乗せてるよね。癖なの?」
「ああ、これ?……なんでかよくわかんないけど、こうしているとなんとなく落ち着くんだ。うまく言えないけど、喩えるなら……誰かと手を繋いでいるような。」
「あははっ、それ自分と手ぇ繋いでるんじゃないの?」
「うーん、そーゆーことじゃないんだけど……」
いつかどこかで、誰かと手を繋いでいたのかもしれない。
そしてその名残があるのかもしれない。
そう言おうとしたが、やめた。きっとこの女の子には伝わらないし、伝える必要もなかった。

女子が机から離れてから、それに、と彼は思う。


(……誰なのかは分からないけど、この感覚がある限り、どこまでも、歩いていけるような気がするんだ。)



fin








望月君幸せになってもらおう計画第二弾です。第一弾は去年のね。
望月君は可哀相で、でもホント好きなので是非とも次に生まれ変わる時は幸せになってほしいです。