「さようなら」
その言葉が、頭から離れない。
つたえたい言葉がありました。
これからも続けると言ったのは彼女で、ここに残ると言ったのは彼。
お元気でと言ったのは彼女で、貴女もと返したのは彼。
最後の最後に、微かに表情を崩したのは彼女で、いつもどおり笑っていたのは、彼だった。
「……さようなら、か……」
薄暗い部屋の汚れたベッドに寝転び、男は独り言ちた。
「師匠は強いから何も心配はないだろうけど……。」
むしろ彼女を襲う人間の方が心配だ、と本人がいたら撃たれそうな言葉を付け加えて男は面白そうに目を細めた。
「……あれ、もう『師匠』じゃないのかな。えーと、」
師匠と呼んでいた女性の名を頭の中で少し探して、そういえば、と思い出す。
(彼女の名前すら、知らなかったんだ……)
女性は常に偽名を使っていた。
×××××だった時もあるし、×××××だった時もある。国を訪れる度に、女性は違う名を名乗った。
もしかしたら本当の名前を言った時があったのかもしれないが、男には判断のできないことであった。
一度だけ名前を尋ねてみたこともあるが、はぐらかされて終わってしまった。
決して強引な交わし方ではなかったが、きっとこの先何度尋ねても教えられることはないのだろうと、その時男は悟った。
「ししょう。」
男が知る唯一の呼び名を、男は声にのせた。
「……ししょう、師匠さん、お師匠ー。」
「……師匠。」
その呼び掛けに答える者は、いない。
(師匠はまたいつか、相棒を作るんだろうか。)
(……作って、そいつと旅をしていくんだろうか。)
(後悔はしてない。していないけど……)
「……なんか、寂しいですね、師匠。」
ずるい、と男は自嘲気味に笑う。
「何だよ、俺ばっかりこんなに気にかけて、俺ばっかり、こんなに……」
男は続くはずの言葉を探して、女性に伝えそびれた事を、ぼんやりと思い出す。
「……言ってたら、少しは違った結末になってたんでしょうかね?――師匠。」
――さぁ、どうでしょうね。
記憶の中の彼女が、静かに笑った気がした。
企画の第二段は弟子→師匠でしたー。
弟子の旅が終わった日のこと。ずっと書きたかったんですー。
が、枠を作ったところで長いこと止めてました。そこらへんは日記のバトン参照で。
お蔵入りするところでしたが、この機会に書いちゃえ!ということで。
これさり気にお題にも入ってるんですよね。
お題作った頃から「つ」はキノ話で、このタイトルで行こうと決めてました。(シズキノの予定でしたが)
危うく陽の目を見なくなるところだったけど。
よーしあと二つか。童話パロやりたいなぁ。でも無駄に長くなりそうだなぁ……。