『3年Z組銀八先生! 金曜日の放課後―補習―』
放課後。
校庭には生徒達の楽しげな声が、
校内には吹奏楽部や弦楽部の音合わせをする音が響いている。
そんな青春雰囲気満開な時間帯だったが、3年Z組だけは静かだった。
むしろ冷戦状態だった。
いつもなら下校するなり部活するなりで一人もいなくなるはずの教室内には、現在2名が冷たい空気を作り出しながら座っている。
一人は、早弁女王(本人は工場長と呼べと言う)の留学生、神楽。
そしてその隣りにいるのは、授業=睡眠の、沖田総悟。
仲の悪さは学校内でも評判の二人が、何故こうして同じ教室に二人っきりなのか、それは二人の目の前にあるものをみれば一目瞭然だった。
机の上には、目を疑いたくなるようなプリントの山。
某サボリ魔大佐もびっくりの量であった。
双方その山を見つめてはいるが、意識はお互いの出方に集中している。
先手を切ったのは、沖田だった。
「早弁ばっかしてるから補習するハメになるんだろィ。」
「年中寝てる男に言われたくないネ。大体あのアイマスク、センスないにもほどがあるヨ。」
「留学生にはあのアイマスクの便利さがわかんねーんだろィ。」
「わかりたくもないネ。」
そうして見つめあう。
むしろ睨みあう。
「ってかこの量はありえねぇだろィ。」
「同感アル。」
ふと、その山のようなプリントに目を向けた沖田に神楽も同意した。
「きっと今頃職員室でパフェでも食べてんだろうなァ。」
「つか監督とかしろよあの先公。」
「全く。」
「「はぁ…」」
溜め息が重なる。
「なぁ、このままサボって何処かに消えねぇか?」
「・・・何処かって・・・ドコ?」
「そうだなァ・・・屋上?そんでのんびり寝転がるか・・・もしくは、前の続きでもするか?」
「・・・そんなの、ここでもできるアルヨ。」
ゆらりと立ち上がる二人。
いつの間にか神楽の手には傘、沖田の手には刀が握られていた。
じりじりと間合いを詰め、出る機会を窺っている。
カチ、カチ、カチ・・・
時計の音が耳障りなほど響く。それでもまだ、動かない。
そして、
『お妙さーーんvv』
バキィッ
その音が引き金となり、二人は動いた。
刀が空気を切る音、そして銃声。
最初はそんな音が響いていたが、いつの間にか二人は武器を捨て、素手で殴り合っていた。
きっとこれも青春。
一旦間合いを取り直すため、二人は同時に、一瞬で距離を空けた。
そうして再びじりじりと詰め掛けた、その時、
「あ!」
出し抜けに声を上げた沖田に、神楽は顔をしかめた。
「何アルカ?命乞いなら認めてあげなくもナイヨ。」
「ちげーよ。もうすぐ4時44分になるから、ちょっくら土方さんを呪ってくらァ。」
「はぁ?馬鹿かお前。」
「知らねぇのかィ?この時間は一日の中で最も呪いが効きやすいんだゼィ。」
「知らねーよ。」
「ちなみに二番目は丑三つ時。」
「いや聞いてないから。」
間髪いれずにつっこむ神楽。
そんな彼女にくすりと笑い、
「というわけで、」
すっと神楽の手を握り、軽く上下に振った。
「?」
「握手だよ。」
「へ?」
「一時休戦だ。」
そう言うと沖田は手を離して、鞄の中から黒い本やら赤い水(らしきもの)やら怪しげな衣装やらをたくさん取り出し始めた。
一方神楽は、それには目を向けず、離された手をじっと見ていた。
(握手・・・休戦・・・かぁ)
「それじゃ、ちょっと行ってくらァ。」
沖田の呑気な(人を呪いに行くとは考えられない)声で、神楽は我に返った。
「う、うん・・・」
「?どうかしたのかィ?」
「なっ、何でもないヨ。・・・気が向いたら酢昆布買ってこい。」
「気が向いたらなァ。」
そうして沖田は出て行った。
残された神楽は、あーあ、と呟き足をぶらぶらさせる。
「暇になっちゃったヨ・・・」
そして、先程のやり取りを思い返していた。
しばらく上を向いて物思いにふけっていた神楽は、突然がばっと机に向かった。
“とりあえず少しだけやろうかな。
あいつが帰ってきたときに、びっくりさせてやるんだ。”
そんなことを考えながら、神楽はプリントを一枚引き寄せた。
その十秒後、机に突っ伏している神楽の姿があった。
おわり。